心不全管理をアートする
脚本はどう作るのか
定価 3,850円(税込) (本体3,500円+税)
- A5判 120ページ 2色
- 2017年9月22日刊行
- ISBN978-4-7583-1444-2
電子版
序文
はじめに
●心不全治療はなぜ難しいのか?
心不全治療は難しい との声を聞きます。
心不全には,とりあえずラシックスさえ打てばよい との声もあります。
心不全診療の現場で囁かれる代表的な意見です。
群盲象を撫でるという格言があります。触れた場所によって全体像のイメージが変わるように,自分がかかわる部分だけに固執して,全体像が見渡せないたとえです。限局された領域の匠が最高なパフォーマンスを展開しても,ときに全体の成功をつかめないのが心不全管理の特徴です。心臓カテーテル診療の急速な発展は,循環器領域に多くの恩恵をもたらしました。その過程で,1点介入治療が突出し,一部に「木を見て森を見ず」,さらには,「森どころか,木も分からず,葉っぱしか見ようとしない」風潮も生み出しました。ときに「神の手」と称される部品医療の弊害です。
心不全という言葉一つには,多くの意味が含まれています。急性と慢性の理解から始まり,先制医療や終末期医療にも目配せが必要です。一方で,原因疾患を同定し,介入することも重要な心不全治療の一部です。一人の患者を前にして,心不全診療では縦横無尽に管理を組み立てる余地があるのです。各治療パーツがもつ重みや意義を正確に把握し,適材適所でパズルを組み立てる作業,すなわち,脚本書きこそが心不全管理の醍醐味です。心不全治療が難しく感じてしまうのは,単に脚本書きに慣れていないだけです。
●この本で私が伝えたいこと
心不全に関する書籍はあふれかえっています。そのほとんどが,索引を引き,必要部分だけ断片的に読み取れる構成です。確かに,1点介入治療では有効です。しかし,そのような心不全本ではすべてを読み切っても,実際にどう診療すべきかのイメージが湧かないと聞きます。書籍の記載が部品化し,心不全管理の脚本を書く視点を欠いているからです。
本書は,常に現場に立つ私が,多種多様な患者に対峙し,日ごろどのように心不全管理の脚本を書いているのか,まるで読み物をなぞるように一気に書き下ろしました。必要な部分だけを検索することもできますが,むしろ一気に読み切ることで,心不全管理のレベルが上がる一冊として手にとってください。そして,心不全管理に行き詰まったときもまた,戦略を大きく展開するきっかけを作ってくれるでしょう。つまり,あなたもこの本で,新たな心不全脚本家に仲間入りできるはずです。
●「心不全管理をアートする」をどう読むのか?
心不全治療の道具や介入の種類は増えましたが,結果として全体像が見えにくくなりました。脚本書きは,病態や管理の全体像をイメージすることから始まります。心不全の病態は分子レベルで明かされつつありますが,多くの教科書ではこの記述の部分で早くも挫折してしまいます。
第一章では,心不全の病態を治療の視点から解き明かしながら,状況に応じた治療の組み立て方を学びます。
適切な治療は,適切な診断に基づきます。心ポンプ異常により生ずる生体現象は,うっ血と低心拍出の2つしかありません。第二章ではうっ血を,第三章では低心拍出を考えます。心不全徴候の大部分を占めるうっ血は,専門医のみならず,医療スタッフ,さらには,巷の誰もが見立てられる診断法が重要です。一方,低心拍出への対策は,重症心不全管理の主軸です。バランスを意識した治療とは何か,ときには,治療の限界を知る必要もあります。第四章では,その際に用いる心不全基本薬の使い方を伝授します。重症心不全ほど,クスリを使う際のイメージ作りが大切です。
心不全管理の多くは,点での治療では太刀打ちできず,線や面での管理が必要です。第五章で触れる線の管理とは,時間軸で考える治療戦略です。「先を読む」「先手を打つ」ために,具体的にどうすればよいかを述べます。加えて,第六章で原因疾患への介入に触れ,面での管理が完成します。そのうえで,管理を有効に進めるシステム作りを第七章で述べていきます。医療スタッフのみならず,患者や家族をいかに上手に味方に付けるかが大切です。
なお,脚本書きに必要なイメージ作りを主軸とした読本ですが,巻末に学術的な資料を補填しました。また,本文の説明に即した症例も提示しましたので,具体的な脚本作りを感じていただければと思います。
北里大学北里研究所病院
循環器内科 教授
猪又 孝元
●心不全治療はなぜ難しいのか?
心不全治療は難しい との声を聞きます。
心不全には,とりあえずラシックスさえ打てばよい との声もあります。
心不全診療の現場で囁かれる代表的な意見です。
群盲象を撫でるという格言があります。触れた場所によって全体像のイメージが変わるように,自分がかかわる部分だけに固執して,全体像が見渡せないたとえです。限局された領域の匠が最高なパフォーマンスを展開しても,ときに全体の成功をつかめないのが心不全管理の特徴です。心臓カテーテル診療の急速な発展は,循環器領域に多くの恩恵をもたらしました。その過程で,1点介入治療が突出し,一部に「木を見て森を見ず」,さらには,「森どころか,木も分からず,葉っぱしか見ようとしない」風潮も生み出しました。ときに「神の手」と称される部品医療の弊害です。
心不全という言葉一つには,多くの意味が含まれています。急性と慢性の理解から始まり,先制医療や終末期医療にも目配せが必要です。一方で,原因疾患を同定し,介入することも重要な心不全治療の一部です。一人の患者を前にして,心不全診療では縦横無尽に管理を組み立てる余地があるのです。各治療パーツがもつ重みや意義を正確に把握し,適材適所でパズルを組み立てる作業,すなわち,脚本書きこそが心不全管理の醍醐味です。心不全治療が難しく感じてしまうのは,単に脚本書きに慣れていないだけです。
●この本で私が伝えたいこと
心不全に関する書籍はあふれかえっています。そのほとんどが,索引を引き,必要部分だけ断片的に読み取れる構成です。確かに,1点介入治療では有効です。しかし,そのような心不全本ではすべてを読み切っても,実際にどう診療すべきかのイメージが湧かないと聞きます。書籍の記載が部品化し,心不全管理の脚本を書く視点を欠いているからです。
本書は,常に現場に立つ私が,多種多様な患者に対峙し,日ごろどのように心不全管理の脚本を書いているのか,まるで読み物をなぞるように一気に書き下ろしました。必要な部分だけを検索することもできますが,むしろ一気に読み切ることで,心不全管理のレベルが上がる一冊として手にとってください。そして,心不全管理に行き詰まったときもまた,戦略を大きく展開するきっかけを作ってくれるでしょう。つまり,あなたもこの本で,新たな心不全脚本家に仲間入りできるはずです。
●「心不全管理をアートする」をどう読むのか?
心不全治療の道具や介入の種類は増えましたが,結果として全体像が見えにくくなりました。脚本書きは,病態や管理の全体像をイメージすることから始まります。心不全の病態は分子レベルで明かされつつありますが,多くの教科書ではこの記述の部分で早くも挫折してしまいます。
第一章では,心不全の病態を治療の視点から解き明かしながら,状況に応じた治療の組み立て方を学びます。
適切な治療は,適切な診断に基づきます。心ポンプ異常により生ずる生体現象は,うっ血と低心拍出の2つしかありません。第二章ではうっ血を,第三章では低心拍出を考えます。心不全徴候の大部分を占めるうっ血は,専門医のみならず,医療スタッフ,さらには,巷の誰もが見立てられる診断法が重要です。一方,低心拍出への対策は,重症心不全管理の主軸です。バランスを意識した治療とは何か,ときには,治療の限界を知る必要もあります。第四章では,その際に用いる心不全基本薬の使い方を伝授します。重症心不全ほど,クスリを使う際のイメージ作りが大切です。
心不全管理の多くは,点での治療では太刀打ちできず,線や面での管理が必要です。第五章で触れる線の管理とは,時間軸で考える治療戦略です。「先を読む」「先手を打つ」ために,具体的にどうすればよいかを述べます。加えて,第六章で原因疾患への介入に触れ,面での管理が完成します。そのうえで,管理を有効に進めるシステム作りを第七章で述べていきます。医療スタッフのみならず,患者や家族をいかに上手に味方に付けるかが大切です。
なお,脚本書きに必要なイメージ作りを主軸とした読本ですが,巻末に学術的な資料を補填しました。また,本文の説明に即した症例も提示しましたので,具体的な脚本作りを感じていただければと思います。
北里大学北里研究所病院
循環器内科 教授
猪又 孝元
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目次
第一章
治療から心不全を理解する
1. EBMが心不全の考え方を変えた
2. 目に見える治療、目に見えない治療
3. 目に見える指標 ―うっ血と低心拍出の綱引き―
4. 心不全管理の時間軸と病態の理解
5. 急性期の○は慢性期の×
6. 心不全薬は、ときと場合で役割を変える
第二章
うっ血 ―心不全診断の基本―
1. うっ血診断はなぜ大切か
2. 心不全を見抜く問診
3. まずクビをみる
【コラム】頸動脈に惑わされるな
4. BNPの神髄はどこにあるか
5. X線と心電図を活かす
【コラム】心電図に表れる心不全
6. エコーの弱点、ガンツのすごさ
7. 診断は間違い探しゲーム
第三章
低心拍出 ―重症心不全に立ち向かう―
1. 低心拍出とEF低下、末梢循環不全
2. 低心拍出から抜け出す脚本
【コラム】「量」か「圧」か?
3. あきらめる治療
4. 右心を無視するな
第四章
治療ツールを使いこなす
1. ACE阻害薬は万能なクスリ
2. β遮断薬治療マニュアル
3. 伸びしろ大きい抗アルドステロン薬
4. 最適な血圧値とトリプルセラピー
5. 利尿薬を使い切る
第五章
予後を見据える
1. 左室逆リモデリング
2. 再入院を防ぐ脚本
3. 失敗しないという考え方
4. 入口の治療 ―かくれ心不全―
5. 出口の治療 ―こげつき心不全―
第六章
原因治療を忘れるな
1. 優先順位を意識した治療の組み立て
2. HFpEFの落とし穴
3. 拡張型心筋症とサルコイドーシス
4. 虚血は心不全診療の闇
5. 不整脈と心不全 ―ニワトリが先か卵が先か―
6. エビデンスなき抗血栓療法
第七章
患者とスタッフをやる気にさせる
1. ムンテラの妙
2. 水と塩は制限すべきか
3. 薬剤師に期待する
4. 効率を意識したチーム医療
5. 心不全地域医療は可能か
おわりに
略語一覧
文献
巻末資料
・今どきの心不全治療のすみ分け
・Forrester分類/Nohria-Stevenson分類
・心不全病態の形成過程
・血管内と血管外のうっ血
・症例経過で理解する①
・頸静脈怒張の診察のポイント
・BNP値は足し算・引き算で考える
・胸部X線―心胸郭比(CTR)
・胸部X線―cephalization
・胸部X線―左房拡大
・胸部X線―肺高血圧
・胸部X線―側面像で左右心を分離する
・心電図での左房負荷
・うっ血の心エコー所見
・Swan-Ganzのデータを系統立てて読む
・症例経過で理解する②
・臨床的Frank-Starling(FS)曲線のシフトアップ法
・症例経過で理解する③
・症例経過で理解する④
・心不全β遮断薬治療を成功に導くコツ
・ループ利尿薬によるうっ血解除のコツ
・慢性心不全の進行速度を遅らせる4つの戦略
・心不全再入院を防ぐ2つの戦略
・クリニカルシナリオ(CS):心不全急性期治療における第一手
・心不全ステージ分類と治療法
・症例経過で理解する⑤
・超急性期で見逃さない6つの基礎心疾患
・心臓サルコイドーシスへの2つの診断プロセス
・症例経過で理解する⑥
治療から心不全を理解する
1. EBMが心不全の考え方を変えた
2. 目に見える治療、目に見えない治療
3. 目に見える指標 ―うっ血と低心拍出の綱引き―
4. 心不全管理の時間軸と病態の理解
5. 急性期の○は慢性期の×
6. 心不全薬は、ときと場合で役割を変える
第二章
うっ血 ―心不全診断の基本―
1. うっ血診断はなぜ大切か
2. 心不全を見抜く問診
3. まずクビをみる
【コラム】頸動脈に惑わされるな
4. BNPの神髄はどこにあるか
5. X線と心電図を活かす
【コラム】心電図に表れる心不全
6. エコーの弱点、ガンツのすごさ
7. 診断は間違い探しゲーム
第三章
低心拍出 ―重症心不全に立ち向かう―
1. 低心拍出とEF低下、末梢循環不全
2. 低心拍出から抜け出す脚本
【コラム】「量」か「圧」か?
3. あきらめる治療
4. 右心を無視するな
第四章
治療ツールを使いこなす
1. ACE阻害薬は万能なクスリ
2. β遮断薬治療マニュアル
3. 伸びしろ大きい抗アルドステロン薬
4. 最適な血圧値とトリプルセラピー
5. 利尿薬を使い切る
第五章
予後を見据える
1. 左室逆リモデリング
2. 再入院を防ぐ脚本
3. 失敗しないという考え方
4. 入口の治療 ―かくれ心不全―
5. 出口の治療 ―こげつき心不全―
第六章
原因治療を忘れるな
1. 優先順位を意識した治療の組み立て
2. HFpEFの落とし穴
3. 拡張型心筋症とサルコイドーシス
4. 虚血は心不全診療の闇
5. 不整脈と心不全 ―ニワトリが先か卵が先か―
6. エビデンスなき抗血栓療法
第七章
患者とスタッフをやる気にさせる
1. ムンテラの妙
2. 水と塩は制限すべきか
3. 薬剤師に期待する
4. 効率を意識したチーム医療
5. 心不全地域医療は可能か
おわりに
略語一覧
文献
巻末資料
・今どきの心不全治療のすみ分け
・Forrester分類/Nohria-Stevenson分類
・心不全病態の形成過程
・血管内と血管外のうっ血
・症例経過で理解する①
・頸静脈怒張の診察のポイント
・BNP値は足し算・引き算で考える
・胸部X線―心胸郭比(CTR)
・胸部X線―cephalization
・胸部X線―左房拡大
・胸部X線―肺高血圧
・胸部X線―側面像で左右心を分離する
・心電図での左房負荷
・うっ血の心エコー所見
・Swan-Ganzのデータを系統立てて読む
・症例経過で理解する②
・臨床的Frank-Starling(FS)曲線のシフトアップ法
・症例経過で理解する③
・症例経過で理解する④
・心不全β遮断薬治療を成功に導くコツ
・ループ利尿薬によるうっ血解除のコツ
・慢性心不全の進行速度を遅らせる4つの戦略
・心不全再入院を防ぐ2つの戦略
・クリニカルシナリオ(CS):心不全急性期治療における第一手
・心不全ステージ分類と治療法
・症例経過で理解する⑤
・超急性期で見逃さない6つの基礎心疾患
・心臓サルコイドーシスへの2つの診断プロセス
・症例経過で理解する⑥
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猪又先生の心不全の診かた,治しかたがわかります! 心不全は治せる! 心不全は難しくない!
限局された領域の匠が最高にパフォーマンスしても,全体として治療を成功させることができないのが心不全管理の特徴であり難しさである。各治療パーツがもつ重みや意義を正確に把握し,適材適所でパズルを組み立てる作業,すなわち,脚本書きこそが心不全管理の神髄である。
常に実践の現場に立つ筆者が日頃どのように心不全管理の脚本を書いているのか,まるで読み物をなぞるように書き下ろしたのが本書。索引を引き必要部分だけ断片的に読む成書とは異なる,全く新たな心不全の本となっている。心不全管理が上手になる一冊として手にとってほしい。