投球障害肩 こう診てこう治せ
ここが我々の切り口!
改訂第2版
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定価 8,580円(税込) (本体7,800円+税)
- B5変型判 336ページ オールカラー,イラスト500点,写真150点
- 2016年12月26日刊行
- ISBN978-4-7583-1368-1
電子版
序文
序文(改訂第2版)
この本はEBM(evidence based medicine)に基づいた内容だけで書き上げた本ではありません。1990年頃を中心に行った基礎的な研究と,その後,多くの肩関節に悩む患者さん一人一人の治療を通して得られた情報を基に書いたPBM(patient based medicine)に基づいた内容の本です。
2004年10月に『投球障害肩 こう診てこう治せ』という当時としては誰もつけなかったタイトルと表紙のデザインで初版(第1版)を発行させていただきました。治療するためにどのようにして「組織損傷に至ったストーリーを構築」し「そのストーリーを変える」ために我々のもっている知識・技術をどう提供するかについてまとめた第1版を基に,その後12年間の経験を加え,牛島和彦氏にも参加してもらい,再度まとめたのが本書です。
1974年に日本肩関節学会が研究会として世界に先駆けて発足し,1975年には日本整形外科スポーツ医学会が発足した直後の1976年に医者になって整形外科を選び,そのままさまざまないきさつから肩関節外科の世界に引きずり込まれ,多くの先輩諸氏にもみくちゃにされながらも独学で肩関節鏡を始め,最初の10年間をなんとか生きながらえてきました。肩関節鏡に多くの肩関節外科医が目を向け始めたこの時期,1985年から1年間,英国のRoyal National Orthopaedic HospitalのMr. Ian Bayleyのもとに留学し,Lipmann Kessel, Angus Wallace, Stephen Copelandなどの英国の肩関節外科医と知り合うことができ,その翌年のベルギー整形外科学会の招待講演で同席したDr. Frank W. Jobeとの話から,その後の日本での肩関節外科の研究テーマが見えてきました。帰国翌年から,同じ職場の理学療法士の山口光國君と肩関節の安定化機構の研究を開始し,肩関節運動の基本である「肩関節の安定化機構(肩関節.15:13-17,1991.)」,客観的機能診断法としての「Scapula-45撮影法の開発(肩関節:16:109-113,1992.)」,治療のコンセプトとしての「Cuff-Y exerciseの開発(肩関節:16:140-145,1992.)」の3つの柱に関する基礎研究を行い,治療法がほぼ確立した1991年,引退寸前に追い込まれていた千葉ロッテマリーンズの牛島和彦投手が偶然に来院。筒井廣明・山口光國・牛島和彦のトリオがお互いの立場を尊重しながら連日連夜にわたり議論をし,確認の研究をして,治療法の幅を論理的に拡げていきました。そして,牛島和彦氏が復帰することで多くの野球を中心とするスポーツ選手が,栗山英樹氏曰く「プロ野球選手の駆け込み寺」のごとく押し寄せ,彼らを一人一人治療することで我々もまた,治療レベルを上げるための基礎研究をがむしゃらに行ってきました。これらの歴史が,本書の根幹に流れています。
肩という,人の身体のさまざまな部位の運動機能が多大な影響を与える部位を専門にしたことで,逆に足や膝,股関節あるいは脊柱や胸郭,さらに肘・前腕・手などの部位についても,肩にどのように影響しているかを考えることで診ることができるようになりました。また,これらの部位の機能を変えることが肩の機能に影響することも数多く経験させていただき,整形外科という臨床医学の世界の素晴らしさを味わうことができました。
第1版あってこその本書であり,第1版の発刊にあたってご尽力いただいたメジカルビュー社の故三沢雄比古氏に改めて感謝するとともに,その後12年間にわたり,あらゆる学会や講演会に参加し,メモを書き留め,挫けることなくこの改訂第2版の発刊まで我々を引きずってこられた松原かおる氏には「ありがとうございます」という言葉以上のお礼の言葉は見当たりません。
小生が味わったこの40年間の楽しさを是非,読者の方々には読み解いていただきたいと思います。
2016年12月
筒井廣明
-----------------------------------------------------------------
序文(第1版)
肩のスポーツ障害は診断はさることながら,治療も難しいと敬遠される方が多いように思われる。医療側からすると病態診断に基づいて治療を行ったのだから,スポーツ活動への許可を出すわけだが,選手本人は,いざスポーツの現場に戻ろうとすると,パフォーマンスを上げることができず,医療の場に戻ってきてしまうことが多い。切れ味の良い治療成績が出せないために,「肩は治りにくい」という印象をもったり,また同じような診断をして治療を行っても,予想以上に症状が改善しスポーツを続けることのできた選手をみると,いよいよ「肩はわからない」という考えになってしまうのではないだろうか。
人間の体には,高度な連携システムが採用されている。非常に繊細な調整を必要とする仕組みもあれば寛容な仕組みもあり,それらが上手にそれぞれの役割を演じているときは問題を起こさない。また,人は日々の少しずつの変化は,まったくといっていいほど気にとめない。しかし,ある時,できると思っていたことができない,他人に指摘されて,そういえば変かなと思ったり,いつもは治るはずの症状が長引いていることなどに気がついた時には,すでに,身体の一部に無理難題が生じ,個体の修正能力では対応できない状況が発生している。
スポーツによる障害のなかで他の部位に比べ肩の障害が扱いにくいのは,肩が複合関節として機能するために,形態解剖の知識に加え機能解剖の知識,あるいは考え方が必要なためではないかと思う。さらに全身の動きのなかで肩が負うリスクを考えることも,症状の発現および治療の選択に際して重要な意味をもつ。
とくに,症状を出している損傷部位は,パフォーマンスを遂行するうえで他の部位の能力低下のツケを払っているようなもので,「それがあるから」と責めるのではなく,むしろその部位に無理をかけ続けてきた「沈黙している怠け者」に対して上手に対処してあげることが良い結果を生む。つまり,症状の原因としての病態診断よりもむしろ,病態発生のストーリーを構築することが治療方法選択のポイントになる。
結果である有症状部位の正確な病態診断,病態自体に対する治療に加え,症状発現因子を運動連鎖のなかからみつけだし改善することが,治療の際に大切であるということを,本書からくみ取って頂きたい。
また,治療は損傷された組織に対する手術療法や損傷部にストレスを加えないような運動機能を獲得する運動療法,あるいは病態に伴う運動機能障害を改善するための運動連鎖を考慮した運動療法などがあるが,症状の発現をどのように捉えるかによって,治療方法も治療対象部位・機能も異なる。運動機能面に関しては理学療法士が,運動機能に影響を及ぼす病態治療に関しては医師が,それぞれの専門性を出しながら連携して選手の治療に当たることが大切である。
本書がスポーツ障害肩の選手と接する際の何らかのヒントとなり,1人でも多くの選手が障害を乗り越えて,後悔のないスポーツ活動を続けることができるようになれば幸いである。
最後に,われわれはこのような考え方,治療方法にたどり着き,本書が完成したのは,治療に当たらせて頂いた数多くの選手ならびに患者さん1人1人からの貴重な情報,ご意見の賜物であり,この場を借りて感謝申し上げたい。
2004年10月
筒井廣明
この本はEBM(evidence based medicine)に基づいた内容だけで書き上げた本ではありません。1990年頃を中心に行った基礎的な研究と,その後,多くの肩関節に悩む患者さん一人一人の治療を通して得られた情報を基に書いたPBM(patient based medicine)に基づいた内容の本です。
2004年10月に『投球障害肩 こう診てこう治せ』という当時としては誰もつけなかったタイトルと表紙のデザインで初版(第1版)を発行させていただきました。治療するためにどのようにして「組織損傷に至ったストーリーを構築」し「そのストーリーを変える」ために我々のもっている知識・技術をどう提供するかについてまとめた第1版を基に,その後12年間の経験を加え,牛島和彦氏にも参加してもらい,再度まとめたのが本書です。
1974年に日本肩関節学会が研究会として世界に先駆けて発足し,1975年には日本整形外科スポーツ医学会が発足した直後の1976年に医者になって整形外科を選び,そのままさまざまないきさつから肩関節外科の世界に引きずり込まれ,多くの先輩諸氏にもみくちゃにされながらも独学で肩関節鏡を始め,最初の10年間をなんとか生きながらえてきました。肩関節鏡に多くの肩関節外科医が目を向け始めたこの時期,1985年から1年間,英国のRoyal National Orthopaedic HospitalのMr. Ian Bayleyのもとに留学し,Lipmann Kessel, Angus Wallace, Stephen Copelandなどの英国の肩関節外科医と知り合うことができ,その翌年のベルギー整形外科学会の招待講演で同席したDr. Frank W. Jobeとの話から,その後の日本での肩関節外科の研究テーマが見えてきました。帰国翌年から,同じ職場の理学療法士の山口光國君と肩関節の安定化機構の研究を開始し,肩関節運動の基本である「肩関節の安定化機構(肩関節.15:13-17,1991.)」,客観的機能診断法としての「Scapula-45撮影法の開発(肩関節:16:109-113,1992.)」,治療のコンセプトとしての「Cuff-Y exerciseの開発(肩関節:16:140-145,1992.)」の3つの柱に関する基礎研究を行い,治療法がほぼ確立した1991年,引退寸前に追い込まれていた千葉ロッテマリーンズの牛島和彦投手が偶然に来院。筒井廣明・山口光國・牛島和彦のトリオがお互いの立場を尊重しながら連日連夜にわたり議論をし,確認の研究をして,治療法の幅を論理的に拡げていきました。そして,牛島和彦氏が復帰することで多くの野球を中心とするスポーツ選手が,栗山英樹氏曰く「プロ野球選手の駆け込み寺」のごとく押し寄せ,彼らを一人一人治療することで我々もまた,治療レベルを上げるための基礎研究をがむしゃらに行ってきました。これらの歴史が,本書の根幹に流れています。
肩という,人の身体のさまざまな部位の運動機能が多大な影響を与える部位を専門にしたことで,逆に足や膝,股関節あるいは脊柱や胸郭,さらに肘・前腕・手などの部位についても,肩にどのように影響しているかを考えることで診ることができるようになりました。また,これらの部位の機能を変えることが肩の機能に影響することも数多く経験させていただき,整形外科という臨床医学の世界の素晴らしさを味わうことができました。
第1版あってこその本書であり,第1版の発刊にあたってご尽力いただいたメジカルビュー社の故三沢雄比古氏に改めて感謝するとともに,その後12年間にわたり,あらゆる学会や講演会に参加し,メモを書き留め,挫けることなくこの改訂第2版の発刊まで我々を引きずってこられた松原かおる氏には「ありがとうございます」という言葉以上のお礼の言葉は見当たりません。
小生が味わったこの40年間の楽しさを是非,読者の方々には読み解いていただきたいと思います。
2016年12月
筒井廣明
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序文(第1版)
肩のスポーツ障害は診断はさることながら,治療も難しいと敬遠される方が多いように思われる。医療側からすると病態診断に基づいて治療を行ったのだから,スポーツ活動への許可を出すわけだが,選手本人は,いざスポーツの現場に戻ろうとすると,パフォーマンスを上げることができず,医療の場に戻ってきてしまうことが多い。切れ味の良い治療成績が出せないために,「肩は治りにくい」という印象をもったり,また同じような診断をして治療を行っても,予想以上に症状が改善しスポーツを続けることのできた選手をみると,いよいよ「肩はわからない」という考えになってしまうのではないだろうか。
人間の体には,高度な連携システムが採用されている。非常に繊細な調整を必要とする仕組みもあれば寛容な仕組みもあり,それらが上手にそれぞれの役割を演じているときは問題を起こさない。また,人は日々の少しずつの変化は,まったくといっていいほど気にとめない。しかし,ある時,できると思っていたことができない,他人に指摘されて,そういえば変かなと思ったり,いつもは治るはずの症状が長引いていることなどに気がついた時には,すでに,身体の一部に無理難題が生じ,個体の修正能力では対応できない状況が発生している。
スポーツによる障害のなかで他の部位に比べ肩の障害が扱いにくいのは,肩が複合関節として機能するために,形態解剖の知識に加え機能解剖の知識,あるいは考え方が必要なためではないかと思う。さらに全身の動きのなかで肩が負うリスクを考えることも,症状の発現および治療の選択に際して重要な意味をもつ。
とくに,症状を出している損傷部位は,パフォーマンスを遂行するうえで他の部位の能力低下のツケを払っているようなもので,「それがあるから」と責めるのではなく,むしろその部位に無理をかけ続けてきた「沈黙している怠け者」に対して上手に対処してあげることが良い結果を生む。つまり,症状の原因としての病態診断よりもむしろ,病態発生のストーリーを構築することが治療方法選択のポイントになる。
結果である有症状部位の正確な病態診断,病態自体に対する治療に加え,症状発現因子を運動連鎖のなかからみつけだし改善することが,治療の際に大切であるということを,本書からくみ取って頂きたい。
また,治療は損傷された組織に対する手術療法や損傷部にストレスを加えないような運動機能を獲得する運動療法,あるいは病態に伴う運動機能障害を改善するための運動連鎖を考慮した運動療法などがあるが,症状の発現をどのように捉えるかによって,治療方法も治療対象部位・機能も異なる。運動機能面に関しては理学療法士が,運動機能に影響を及ぼす病態治療に関しては医師が,それぞれの専門性を出しながら連携して選手の治療に当たることが大切である。
本書がスポーツ障害肩の選手と接する際の何らかのヒントとなり,1人でも多くの選手が障害を乗り越えて,後悔のないスポーツ活動を続けることができるようになれば幸いである。
最後に,われわれはこのような考え方,治療方法にたどり着き,本書が完成したのは,治療に当たらせて頂いた数多くの選手ならびに患者さん1人1人からの貴重な情報,ご意見の賜物であり,この場を借りて感謝申し上げたい。
2004年10月
筒井廣明
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目次
肩を知る 筒井廣明
肩関節の研究からわかった事実
投球障害肩を診る 筒井廣明
肩を診る前の心得
投球障害肩の病態
投球障害肩の画像所見
投球障害肩の病態診断テスト
病態から診断・治療への考え方
理学所見でみつける投球障害肩の治療法 筒井廣明
理学所見をとる重要性
投球動作に必要な身体機能
身体各部から影響を受ける肩
投球動作におけるイメージとの差
Dr.筒井の投球障害肩外来 筒井廣明
患者さんを診察する目的
右投げ投手の理学所見
手術する,しないはどう判断するか
投球障害肩に対する理学療法の考え方 山口光國
セラピーの基本原則
理学療法の役割
理学療法にかかわる他因子
投球障害肩に対する実際の評価 山口光國
可動域
筋力・筋活動
疼痛
投球動作
投球における注意すべき基礎知識
肩関節の運動における注意点
体表からの観察
理学的評価の実際
投球障害肩に対する理学療法の実際 山口光國
物理療法
徒手療法
体操療法
実際の投球を踏まえた対応 山口光國
投球動作の分析
投球動作を踏まえたトレーニング
投球の基礎知識 投球で使われる用語
投球の基礎知識 ボール
投球の基礎知識 グローブ
プロから伝授!投球テクニック 牛島和彦,山口光國
各種ボールの握り方
肩関節の研究からわかった事実
投球障害肩を診る 筒井廣明
肩を診る前の心得
投球障害肩の病態
投球障害肩の画像所見
投球障害肩の病態診断テスト
病態から診断・治療への考え方
理学所見でみつける投球障害肩の治療法 筒井廣明
理学所見をとる重要性
投球動作に必要な身体機能
身体各部から影響を受ける肩
投球動作におけるイメージとの差
Dr.筒井の投球障害肩外来 筒井廣明
患者さんを診察する目的
右投げ投手の理学所見
手術する,しないはどう判断するか
投球障害肩に対する理学療法の考え方 山口光國
セラピーの基本原則
理学療法の役割
理学療法にかかわる他因子
投球障害肩に対する実際の評価 山口光國
可動域
筋力・筋活動
疼痛
投球動作
投球における注意すべき基礎知識
肩関節の運動における注意点
体表からの観察
理学的評価の実際
投球障害肩に対する理学療法の実際 山口光國
物理療法
徒手療法
体操療法
実際の投球を踏まえた対応 山口光國
投球動作の分析
投球動作を踏まえたトレーニング
投球の基礎知識 投球で使われる用語
投球の基礎知識 ボール
投球の基礎知識 グローブ
プロから伝授!投球テクニック 牛島和彦,山口光國
各種ボールの握り方
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投球障害肩の診察眼と運動療法テクニックはこう磨け!
2004年に刊行された『投球障害肩 こう診て こう治せ』の改訂版。12年を経てその間,整形外科医の筒井廣明先生と理学療法士の山口光國先生が,診察室・リハビリテーション室で,講演会場で,学会場で,提供し伝え続けてきた情報とノウハウとテクニックがまとめられている。“肩は治りにくい” “肩はわかりにくい” という声に対して,正しい知識と細やかなアプローチで投球障害肩は治る!ということをわからせてくれる書籍。
投球障害肩を究めた筒井先生と山口先生からの篤いメッセージがここに集結!